全国でも数少ない修行道場。
妙興寺の正式名称は「長嶋山妙興報恩禅寺」。室町時代には幕府より手厚い保護を受け、足利将軍家の祈願所、後光厳天皇の勅願寺でもあった格式の高い禅寺です。大本山妙心寺の流れを継ぐ尾張の大寺院として、1348(貞和4)年に円光大照禅師によって開かれました。
妙興寺には雲水養成所となる専門道場があり、現在も全国から集まった5名の雲水さん(修行僧)が、俗世と離れ厳しい修行を行なっています。
目次
月2回、坐禅会を開催
境内はいつでも自由に散策ができますが、静寂な修行の場を保つため、本堂の中には、一般の方は普段立ち入ることができません。維持の手段として観光地化しない、あくまで修行道場であることを貫く清廉さは、まさに禅寺のあるべき姿を示しています。
ただし、月に2度の「坐禅会」の時だけ、その中に入らせていただき、雲水さんと一緒に坐禅修行を行うことができます。
神聖なる修行の場で、初めての坐禅修行
妙興寺の坐禅会は、坐禅堂もしくは本堂にて行われます。はじめに目を奪われたのが、本堂から見える庭。ここは京都かと見紛うような風情と風格に圧倒されます。
『妙興寺散歩』(1982(昭和57)年妙興寺発行のガイド本)によると、本堂の前庭は「尼連禅河の石庭」といい、1961(昭和36)年に作られたものだそう。悠々と流れる水を表現した小石の筋は大河のよう。その左には、釈迦三尊を示した石組み。水辺にいる親象と子象の形をした石も見えます。ちなみに、この庭石は墨会館建設の際の残り石を譲り受けたものなのだとか。
庭を堪能したあとは、はじめての坐禅に挑戦です。
[足の組み方]は、以下の2通りあります。
①「半跏趺坐(はんかふざ)」右の足を左の腿の上にのせます。
①の組み方でも問題ありませんが、さらにできそうな方は②で行ってみてください。
②「結跏趺坐(けっかふざ)」さらに左の足を右の腿の上にのせます。
座布団を半分に折って、そのうえにお尻をのせると、「お尻と両ひざとの3点」で重心を支えやすくなります。
[手の組み方]
まず左手の親指を、右手で握ります。
次に、左手の他の指で右手の握りこぶしを包みます。
その手を足の上に乗せ、へその下あたりにつけます。「結手(けっしゅ)」
[姿勢・呼吸]
坐禅の姿勢が調ったら、静かに大きく深呼吸をします。「欠気一息(かんきいっそく)」
そして、身体をゆらゆらと大きく前後左右に動かしながら、身体が楽に安定する中心の位置を探ります。呼吸は、腹式呼吸で。ゆっくり「1、2…」と数えていきます。「呼吸が調わない」「雑念がある」と感じたら、「1」から数え直しましょう。
[視線]
顔は、少し顎を引き気味にして、まっすぐ前に向けます。
このとき、目は閉じず、1~2メートル先の畳の上に視線だけを落とします。「半眼(はんがん)」
はじめての坐禅で、こころの騒音に気付く
雲水さんがゆっくりと鐘と拍子木を鳴らし、坐禅が始まります。実際に、坐禅をしてみると、これが意外と難しいものでした。
姿勢を正しくしてそれらしく始めたものの、半眼をすると、何かしら視界に入り、ついそのことを考えてしまう。耳は、聞こえてくる物音を拾ってしまう。「無心」になりたいのに、雑念ばかり浮かんできてしまいます。体と心がバラバラです。
坐禅の体験後、老師とお話しすることができ、この気持ちを正直に話すとこうおっしゃいました。
「坐禅をすれば、鳥の鳴き声も聞こえますし、畳の目も見えるでしょう。そこにあるものを、なくすことなどできません。しかし、何かが見えたり聞こえたりしても、それに対して“あれは何だろう”と追いかけない、思いを引きずらない。無心とは、何も感じないということではなく、あるがままにとらえるということなのです。」
思えば、日常生活において私たちは、何かが起きると(事実)、それに対して「こうかもしれない」「こうすべきなのだろうか」と自分の心の中で勝手に連想しては、自らを疲弊させているような気がします。まさに、坐禅だけに向き合うことのできない、この状態と同じです。
今回、わずかな時間でしたが、実際にやってみることで、「あるがままに受け入れること」を、坐禅は教えてくれました。老師によると、日々の厳しい修行の中で、雲水さんたちが釈迦や仏の教えがこういうことかと到達点を得るのには、10年はかかるとおっしゃいます。禅とは、一生をかけて会得していくような、とても奥深い心の境地があるのでしょう。
「寺の重要な仕事は、迷い葛藤する人々に、心の安らぎを伝えていくことです。暗い道にいる人に対して“こっちだよ”と手引きする、助け船を出す、行く先を照らしてあげる。それが、本来あるべき存在価値です。だから、私たちは人々に信頼される本物の禅僧になるために修行をするのです。
この豊かな自然も、公園や公共施設のように人々に癒しをもたらすものとして、なくてはならないもの。何百年と続くこの寺を潰すことなく、その当時から続く伝統をただひたすらに守り、生き抜いてこられたことは、厳しい現実もありますけれども、そこが良いところだとも思うのですよ。」
達磨大師の言葉に「不立文字(ふりゅうもんじ)」(=悟りは文字や言葉によることなく、修行を積んで、心から心へ伝えるもの)という教えがあります。
つまり、何事も体験してみないとわからないということ。
妙興寺の独特な空間の中で、ぜひ本物の坐禅を体験してみてください。
<坐禅会>
毎月1日・15日 18時~20時
(1/1、8/15は休み)
参加無料
<坐禅と老師の法話>
毎月15日 14時~15時
(8/15は休み)
参加無料
【いつでも散策可能】妙興寺の見どころ紹介
勅使門(国指定重要文化財)
勅使門は天皇や天皇の使者をお迎えする時にのみ使われた門で、後光厳天皇より賜った勅額『国中無双禅刹』が掲げられています。三度の火災、濃尾大地震も耐え抜き、創建当時の様式を今に伝える唯一の建造物です。
鐘楼と梵鐘(愛知県指定文化財)
1689(元禄2)年、徳川光友の援助によって再建。梵鐘は、1890(明治23)年にある雲水が打ち上げた花火によって、殿堂の多くを焼く火事となった際、急を知らせる鐘を突きすぎたため、表面にヒビが見られます。
佛殿(一宮市指定文化財)
佛殿とは、寺の中心に位置して、本尊を安置し礼拝する建物のことです。京都の妙心寺仏殿を手本に1925(大正14)年に再建されました。室町末期の戦乱で衰退した妙興寺は、豊臣秀次の命によって再興。扉には、豊臣家の「五七の桐」の紋所が彫られています。
●天井画
佛殿を見上げると、珍しい油彩画の天井画が見られます。日展・光風会展で活躍していた洋画家山喜多二郎太が、1956(昭和31)年に完成させた作品です。
●木造釈迦如来及両脇侍坐像(愛知県指定文化財)
中央に釈迦如来、右には白象の上に乗った普賢菩薩坐像(ふげんぼさつざぞう)、左には青獅子に乗った文殊菩薩坐像(もんじゅぼさつざぞう)が安置されています。
佛殿では、4~11月の間、案内人の方が説明をしてくださいます(10時~15時まで、月曜日をのぞく)。ここでは案内人の方が採集した境内の無患子(むくろじ)の実をいただけます。数珠の珠にも使われる実で、無病息災を願うものだそうですので、お守りとして持ち歩くのもよいですね。
住所 | 大和町妙興寺2438 |
---|---|
営業時間 | 散策は日中であれば常時可能 |
<妙興寺近くのスポット>
一宮市博物館
妙興寺境内に隣接する博物館。建築家・内井昭蔵の設計で、斬新でありながら自然環境に溶け込む建築で数々の賞を受賞しています。
入口すぐのホールには、かつての妙興寺、真清田神社の姿を復元した模型が展示されています。
常設展示室は一宮市の歴史を紹介。子どもに人気の体験コーナーでは、土日には糸つむぎや機織りの体験も行っています。
住所 | 一宮市大和町妙興寺2390 |
---|---|
営業時間 | 9:30~17:00(入館は16:30まで) [機織り・糸つむぎ体験] 土曜日・日曜日 13:00~15:00 |
定休日 | ・毎週月曜日(ただし、休日にあたる場合は翌日を休館) ・休日の翌日(ただし、土曜日・日曜日または休日の場合は開館) ・年末年始(12/28~31、1/1~4) |
<一宮市のおすすめ紅葉スポット>
旧林家住宅(一宮市尾西歴史民俗資料館 別館)
1720(享保5)年から明治維新まで、美濃路にある起宿の脇本陣と、木曽川の渡船を管理する船庄屋を務めていたのが林家です。建物は濃尾地震で被災しましたが、伝統的な町屋の風情を踏襲した建物として大正初期に建て直されました。(2002(平成14)年に国登録有形文化財(建造物)に登録)。昭和初年から約10年の歳月をかけて作庭された回遊式庭園は、秋にはドウダンやカエデが色づき、美しい景色を見せてくれます。
一宮市尾西歴史民俗資料館
住所 | 一宮市起字下町211 |
---|---|
営業時間 | 9:00~17:00(本館入館・旧林家住宅見学は16:30まで) |
萬葉公園
「萬葉公園」は万葉集に歌われた萩の歌がこの地で詠まれたと提唱されたことにちなんで整備された公園です。園内には40以上の歌詩板が設置されており、その中には、もみじを題材にした歌もあります。真っ赤に色づいた紅葉とともに、万葉の世界を味わってみてはいかがでしょうか。
住所 | 一宮市萩原町戸苅山下46 |
---|---|
営業時間 | 散策は自由 |
138タワーパーク
高さ138mの展望タワー「ツインアーチ138」をシンボルとした公園。大芝生広場には、モミジに似た葉をもつアメリカ原産のフウの木「アメリカフウ」、ローズストリーム北には中国原産の「トウカエデ」、東にはレンガ色になる「メタセコイア」、公園の各所には黄色に色づく「エノキ」があります。高さ100mの展望室(有料)からは、美しく色づいた秋の景色を一望することができます。
住所 | 一宮市光明寺字浦崎21-3 |
---|---|
営業時間 | 9:30~17:00(入館は16:30まで) |
休園日 | 毎月第2月曜日 ※8月、12月を除く ※月曜日が祝日の場合は直後の平日 ※ツインアーチ138は12月26日~30日まで休館 |