毛織物産地「尾州」のいま・むかし のこぎり屋根のある風景 vol.2

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まちを歩けば、のこぎり屋根にあたる―それが日本有数ののこぎり屋根残存数を誇る一宮市の風景。しかし役目を終えた工場は、人々の関心も薄れ、静かに消えゆくのを待つばかり。そんな中、再び工場に第二の人生を送らせようと立ち上がった青年がいました…。

vol.1 はこちら!
>> 毛織物産地「尾州」のいま・むかし のこぎり屋根のある風景 vol.1

1 一宮に2000棟超!「のこぎり屋根」とは

一宮市内の至るところで目に付くのが、「のこぎり屋根」と呼ばれる建物です。この変わった形状の建物は、採光を必要とする繊維関連工場で採用され、かつては全国で見られる景色のひとつでした。
もちろん、毛織物産地として名をはせた一宮市も例外ではなく、今から約50年前には、8000棟を超える「のこぎり屋根工場」があり、全国であまり見かけなくなった今でさえ約2000棟もの建物が残っているといいます。ちなみに、一宮と同じく、のこぎり屋根で有名な桐生の現存数は220棟。一宮市が日本有数の「のこぎり屋根」のまち、であるのは間違いなさそうです。

その後の「のこぎり屋根」は…

それにしても廃工場がなぜこんなにも残っているのでしょう。一般的に役目を終えた工場は、更地にしてマンションや駐車場にするか、倉庫として残すかの2択がほとんど。それというのも、何かをしようと思えば、広すぎるし、寒すぎるし、改装費用がかかりすぎる等、解決すべきハードルがいくつもあるからなのだとか。きっと多くの所有者にとっては「困った産業遺産」だったに違いありません。
しかし「のこぎり屋根工場を一般に開放して活用しよう」と動いた人物がいました。

―それが「のこぎり二」のオーナー・平松久典さんです。

2 のこぎり屋根に会いに行こう

ギャラリー&貸アトリエ「のこぎり二」

こちらは、一宮市篭屋(かごや)の住宅地にある「のこぎり二」。
「のこぎり二」は、平松さんの祖父の代まで経営していた「平松毛織株式会社」の工場を、ギャラリーや貸しアトリエとして活用しています(常に開けっ放し。気軽に入れます)。
では、一緒にのぞいてみましょう。

「のこぎり二」

入り口近くに置かれている当時の織機は、もう動くことはないけれど、まるでこの広いスペースの心臓部のように、なくてはならない存在。今にもガチャンガチャンという軽快な音が聞こえてきそうですね。

織機

  • 織機

  • 織機

入口右のスペースは、ギャラリーになっており、アート系展示を不定期で開催しています。のこぎり屋根は、北向きに建ち、光がすみずみにまわるよう設計された建物。よく見てください、柱の周りに影ができていないのが分かりますよね。のこぎり屋根は古いせいか、暗いと思われていますが、内部はこんなに明るく光あふれる場所なのですよ。

ギャラリー

そしてその隣にはアトリエが続きます。文筆家、アクセサリー作家、造形作家、織物作家など、様々な表現者たちが入居し、それぞれ活動しているスペース。特に間仕切りもないのですが、区画ごとに使う人の個性がにじみ出るような空間ができていて、ある意味、「生きたギャラリー」といえるのかもしれません(こちらも開放されています)。

  • アトリエ

  • アトリエ

  • アトリエ

素敵な空間ですが、実際のところ、工場内は思ったほど過ごしやすくはありません。ここを利用しているアクセサリー作家さんは「そうなんですよねー」と屈託なく笑いながら「それでもこの広さと雰囲気と安さはものすごく魅力的で、暑くても寒くても仕方ないかなって」と答えます。さらに「なにかに引き寄せられちゃったのかなー」とも。

アトリエ

工場の中でゆうれいに出会った

…確かに、ここには何かがいる、ような気が。
「ああ、ゆうれいね」
平松さんは、平然と言いました。「いますよ。僕、見たんです」
それは、「のこぎり二」ができるずっと前、両親から聞いた工場の解体話に大反対し、活用の道を探っていた頃のこと。老人施設にしようとするも、なかなかうまくいかず、このままでは解体するしかなくなっていました。

そんな時、平松さんがひとりで工場の片づけをしていると、自分の周りに誰かいるような、どこかから見られているような、不思議な感覚に包まれたといいます。
「ああ、これは絶対にいる、って確信しました。これは絶対壊しちゃだめだ、まだ生きているんだからって」
動きは止まっても、眠るようにそこにいる建物。おそらく平松さんのいう「ゆうれい」とは、私たちも感じたあの不思議な気配のことなのでしょう。平松さんは、のこぎり屋根を「不要になったもの」としてではなく、「そこに生きているもの」として、寄り添い、ともに歩み続ける決断をしました。

  • アトリエ

  • アトリエ

こうして、2017年にギャラリー&貸アトリエの「のこぎり二」と、カフェ「YUT@CAFÉ(ゆたかふぇ)」が誕生しました。
ちょっと変わった名称の“のこぎり二”ですが、この「二」は、「二回目の人生」という意味です。「工場としての人生は終わったけれど、次の人生は、ここで多くの人が過ごす場所になるように」という平松さんの思いが込められています。

▼同年に「なかなか遺産」として紹介されました!

おもてなしと和みのカフェ「YUT@CAFÉ(ゆたかふぇ)」

YUT@CAFÉ

こちらは「のこぎり二」の手前にあるカフェです。

工場をカフェにしたと聞くと、すっかりリノベーションされた姿をイメージするかもしれません。しかし、ここときたら、トタンは錆び、壁はくすみ、柱は朽ちたまま。手を加えたのは、カフェとして必要な部分だけという潔さです。もちろん、平松さんは建築士なので、きれいにしようと思えばいくらでもできるのですが…。
「それは、僕の考える姿じゃない。のこぎり屋根のカッコよさは、そのままの姿にあると思うから、うわべを変えるだけの再生なんかしたくないんです。まぁ両親は“壁ぐらいきれいに塗ればいいのに”と最後まで言っていましたけど(笑)」。

yut@cafe

  • yut@cafe

  • yut@cafe

ここで働く皆さんも、この雰囲気が好きだと話します。
「この店の主役はやっぱりこの建物と、この雰囲気だと思うんです。だから私たちは、ここが好きで来てくださるお客さんに、少しでもいい時間を過ごしてもらえるように、精いっぱいおもてなしをしているだけ」(現オーナーの岩本さん)

  • yut@cafe

  • yut@cafe

のこぎり屋根の人生に寄り添い、同じ歩調で歩もうとする平松さんと、その思いに動かされた人たち、この空間を愛してやまない人たちが集い、再び時を刻み始めたこの場所。
不思議な心地よさの秘密が、だんだん分かってきました。

3 市制施行100周年!新しいのこぎり企画が進行中

一宮市は2021(令和3)年に市制施行100周年を迎えます。市民による関連事業「市民チャレンジ事業」において、のこぎり屋根の新たな挑戦がスタートすることになりました。
数年前は、見向きもされず、ほんの少しの有志と勉強会をするところから始めた、平松さんののこぎり再生活動。こうして羽ばたきはじめたその先に、のこぎり屋根の町としての第二幕が始まるのかもしれません。今後の展開が楽しみですね!

ノコギリ・スケルトン・トライアル(一宮ノコ屋根ベースi)

名鉄尾西線の終点「玉ノ井駅」プラットフォームの目の前にある、築60年ののこぎり屋根を使って、新しい魅力を多くの人に伝えるチャレンジです。なんと、壁面を透明ビニールで覆って、スケルトン状態に。骨組みだけを見せるというユニークな展示に加え、この内部ではアート展示やライブイベント、のこぎり屋根の座談会などの催しを開催する予定になっています。

のこぎり二

のこぎり二
住所 一宮市篭屋4丁目11−3 平松毛織株式会社
電話番号 0586-58-7174

「のこぎり屋根のある風景 vol.1」はこちら

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